◆ドイツの教会―国民教会の変革を目指して◆
「ドイツ福音主義教会」(EKD)は24の独立した「領邦教会(ランデスキルヒェ)」と「福音主義合同教会」からなる連合体で、これがドイツの全プロテスタント教会を包括しています。それぞれの領邦教会には教派的伝統であるルター派、改革派、そして両者による合同派といった違いはありますが、みな等しく宗教改革の伝統に立っています。信徒総数2740万人、地域教会(ゲマインデ)の数が18100を越えるといいますから、とにかく大組織であることはまちがいありません。
さて長い伝統を持つこの教会の特徴については、いろいろなことがあげられると思います。手短に述べますと、まず敗戦後直ちに「告白教会」を受け継ぐかたちで罪責の告白を行い、東西分断という困難を克服しながら、近隣ヨーロッパはもとより世界の諸教会との関係回復に努めてきたことがあります。またユダヤ人との関係ではホロコースト以後の新しい道を切り開き、過去の課題と責任を負って来ました。さらに記憶に新しいところでは、1989年の劇的な東西ドイツ再統一の背景に東独教会の平和への祈りと行動があったことを忘れることはできません。戦後の半世紀余の歩みから生まれてきた、これらの真剣な神学・実践・運動が世界の諸教会に対して与え続けてきた有形無形のインパクトと影響は、実に計り知れないものがあります。
しかし地上に「しみやしわやそのたぐいのものは何ひとつない」教会が存在しないように、ドイツの教会にも悩みがないわけではありません。それは後を絶たない教会退会者の問題です。統計では68年以降毎年平均10万人、90年以降はさらに増えて25万人とあります。この驚くべき数字をどう理解したらよいのでしょうか。教会税や国民教会の持つ構造的な問題、信仰の個人化や価値観の多様化など様々な要因があげられ、分析・議論されていますが、いまだ有効な処方箋(しょほうせん)をみいだせない状態です。W・クレトケという東独を代表する神学者が、東西統一後の教会を振り返って「人々はまとまって教会を去って行ったが、獲得する時は一人一人だ」と慨嘆していたのを思い出します。
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←ベルリンの目抜き通りに位置するヴィルヘルム皇帝記念教会は、
空爆によって破壊されたが、そのままに補修保存して
平和を訴えている。
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冒頭紹介したEKDを率いる人物は同教会の評議会議長をつとめるW・フーバーです。10年来ベルリン・ブランデンブルク領邦教会の監督を務めてきた方ですが、昨年秋の選挙によりこのポストに就任しました。ある時取材のインタヴューに「キリスト者が次第に減りつつあることに不安はないか」という質問がありました。それに対してフーバー監督は「この危機は教会が伝道する教会に変わるためのチャンスと捉えるべきであって、わたしには不安よりも希望の方が大きい」と答えていたのが印象に残っています。今ドイツの教会は、人々が忘れかけている教会の根拠と意味を様々な機会を用いて提示しながら、一人一人のために伝道する教会に変わろうとしています。
〔2004年6月 田園江田教会報「えだ」掲載〕